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宿題 提出期限:2006/8/11 ③ [提出箱]

3

記念すべき夏休み第一日目から、受験生として生きることを拒否したあたしには、ただただ長くて真っ白な夏休みが目の前に広がっていた。
夏休みがはじめるまでに几帳面にカラーペンで線を引いて、教科ごとに色分けをしてたくさん買い込んだ「良くできました」「出来ました」「努力しましょう」シールを眺める。これのシールでびっしり埋まっていくはずだったのに。
ちょっともったいないと思ったけど、壁から計画表をはがす。わざと、乱暴に。案の定、真ん中あたりで模造紙は破けていく。それをみてあたしはさらに勢いよくえいえい!っとかみのはしっこを引っ張った。
じじじじ。
意外と地味な音で破けていく。
なんだか、思ったことを実行するというのはもっと派手で騒々しいものだと思ってた。
意外と、こんなものなのかも。
そういえば初めてのサボりも、夜中のビールも、屋上の煙草もドキドキしたけど、やってみればいつだって「なんだ、こんなものか」って、いちいちそのことに驚いたっけ。
やらないでいることは、きっとやる前が一番楽しい。

はがした模造紙はぐちゃぐちゃに丸めて、ゴミ箱に乗せた。大きすぎて入らなかったのだ。
とにかく、これであたしの人生はとりあえず、いまの時点で出来る限りの白紙にもどった。
とりあえず受験して、とりあえず大学にいって、とりあえずコンパや恋愛やサークルにおぼれる、と言う計画はなかったことになる。これでいい。

白紙を埋めようとしない。

あたしの夏休みのテーマはこれだ。
あらかじめ決めたいくつかの中から選択するなんてばかげてる。
あと2年生きるとして、あたしに一体何が出来るだろう。偉大なことは出来ない。人から尊敬されたり、賞賛されるようなことも出来そうにない。
あたしが笑って、この世にばいばいを言うためには2年は短い。
さっき、図書館であたしが思った「やりのこしたこと」がいまは良くわからなくなっている。
それは強烈に、どうしようもなくあたしを支配していたのに、いざ「やりのこしたこと」について具体的に考え始めると、どれも間違っていないのに、しっくりこないのだ。

心にぐっと集中していく。
答えを探すんじゃない。答えはきっと、そのうち解ることなんだ。
だから、穴埋め問題を、選択問題をクリアする気持ちよさからは脱出して、あたしはあたしなりに答えを見つけに行けばいいんだ。
さっき破った模造紙の塊をにらみつける。
あ、あ、あああ。

目標や目的なんてないんだった。
目標や目的なんかにごまかされるのはイヤなんだった。
あたしは「今」が欲しい。
今飽きて動いて、人と出会っていろんなことを知りたい。
それがどういう風なのか、どんな感じなのか知りたい。
そしてあたしのことを知ってほしい。
それだけが最後に残った。

会いに行こう。まだ会ったことのないその人に。会いに行こう。
あたしの夏休みが始まる。


つづく


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