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物語の前に [コトバのプール]

*歌

キラキラ。
キラリ。
キラキラ。

低いところを雲がゆっくり左から右へ移動する。
少しずつ、少しずつ。

夜でも完全には暗くならない空を薄く暗い青色に染めて
ゆらりゆらり、ゆらゆら、ゆらり。
一日の終わりに。
歌に出来ない気持ちを心の中で転がしながら
ハナウタで、またはハミングで夜にそっと溶かしてみる。
今日もいい一日だったな。

キラリ。
身体のどこかで何かが光る。
あたしは日々生まれ変わり
あたしは一日の終わりにきちんと死んでいける。

あしたあたしはあたらしいハナウタを歌うだろう。
赤裸々に気の向くまま
夜の空のようにあいまいな明るさで
夜の雲を照らすようにひっそりとでも静かにここで息をしているんだ。

ルララ、ル、ララ。

うたう、うたう、歌をうたう。
一日の終わりに。


**日記

朝起きて、窓の外を眺めながら
歯を磨いて、コーヒーを入れる。
昨日の夜、読みきれなかった文庫本の
妹の誕生日の4倍の数のページを開いて続きを目で追いながら
湯が落ちきるのを待つ。
キッチンの床はいつだって
冷静なくらいにひんやりとしていて
あたしをゆっくりさっきまで見ていた夢から
優しくでもきっぱりと引き剥がす。


「昨日から今日を引き算したら何も残らない。
まるで自分と言う入れ物に硬いふたがしてあるみたいにね」


その言葉に意味を探す。

昨日のあたしから今日のあたしを引き算したら
一体いくつぐらいの数になるんだろう。

仮に昨日までの時間に対して
朝8時15分現在のあたしは大体
(28年×365+9ヶ月×30+15)×24分の8.25ってところ。

なるほどね。

時間だけで考えるなら昨日より今日のあたしの方が確実に
多くに時間を持っていることになる。
でもきっと数にならないところでこの人物は増えてないのだ。
なにがだ?
経験が?思考が?きっと変化に違いない。
昨日とは違う今日。
それを欲しがって、手に入らないと言っているのだ。ふむ。

コーヒーをマグに注いで食パンにチーズとハムをはさんで
ホットサンドメーカーに慎重にはさんだ。

人生を計算する意味。
たしても引いてもどれも自分の人生なのに
この人物は昨日の自分と今日の自分を同じ数量として考えている。
時間や質量を定義せずただ漠然と差し引いているのだ。
全然数学的じゃない。なのに簡単に分かりきったように言う。
絶望的なニュアンスで、蓋がしてあるという。

マグを無造作に口に持っていく。
湯気が顔にかかって、まずいと思ったと同時にやけどしかける。
あぶない。
やけど、これは人生におけるマイナスだろうか。
おかしい。プラスマイナスで自分の一日に点数をつけたら
毎日マイナスかもしれない。

心は有機的なのにどうしてこんなにつまらない定義をするのだろうか
きっと数学がキライな人間がこの文書を書いているのだ。
計算することでいかにつまらなく小さく無機質になるかを
こんなつまらないい方でいかにももっともらしく語っている。

あたしがおもうに
人生とは単純な足し引きでは表せるものではない。
複雑で難解で込み入った長い長い計算式をつむいでいく
何度も考え、書いては消し、消しては書いて
とうとう解けたつもりで答えを書き出して行き
順調にチョークを滑らせていった先に
さらに長い式が続いているのを発見していくことだ。

今度は慎重にコーヒーをすする。
ちょっとしみるけど大丈夫みたい。0.5点プラス、なんちゃって。

人生は数学であらわしきれないくらい長く複雑で難解だし、
あたしはそれを解き明かす時間をとりあえずはほかの事に使いたいと思う。

ふたをしようが何をしようが
生きている限り
酸素を吸い、物を食べ、エネルギーをつくり、代謝を繰り返し
昨日から今日を引き算したらゼロだ、と思うことすら
思考の言葉の生産活動だったり、、、しないかなぁ。

どうかなぁ。

たったままもう一口、コーヒーの苦味と酸味を味わう。
ホットサンドメーカーから白い湯気があがって
部屋がいっきに香ばしくいきいきとする。

コレだけで点数にならないくらいいい気分なのに。
テーブルの上に転がっているボールペンを手にとって
しばしまぶたを閉じて集中する。

右手にマグカップを持ったまま文庫本が閉じないように手首で押さえて
思いつくままペンを走らせる。


「昨日から今日を引き算したら何も残らない。
まるで自分と言う入れ物に硬いふたがしてあるみたいにね」
「昨日と今日がそこにあって引き算できるなら
足したり掛けたりしたっていいじゃない?
でも急がないと今日はあしたには昨日だよ。」


3回、読み返して
2回コーヒーを飲んだ。

まぁ、まずまずかな。

もうすぐパンが焼ける。
夜のあたしはどんな返事をするんだろう。
読み終わることが出きない
書きかけの本を閉じる。



夜の指は饒舌。
物語はソーダ水の泡みたいに
どこからともなく沸いてくる
消えないうちにそっとその気泡の中を覗き込んで
あたしはただ指で奏でるのだ。
けして考えても生まれない
だから物語は美しく、欠落している。



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コメント 2

chika

ひさしぶり
けえちゃんの日記を見ているとほっとするよ
by chika (2006-06-02 22:34) 

ke_co_ltd

>chika
うにゅ。ひさ| |・) |ε・) |( ・ε・)ノ ニョキ♪
なんだ~お疲れなのかなぁ?
いくらでもほっとしていって!で、なんかいでも元気出して!
大丈夫よ!けえがついてるから
by ke_co_ltd (2006-06-03 16:18) 

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